大分トリニータの躓き 4
2015/10/30
さて、今回も前回に引き続き大分トリニータの経営破たんの原因について考えてみたいとおもいます。今回は、実質的に大分トリニータを育ててきた元社長、溝畑氏の経営手腕についてです。
溝畑氏の経営の大きな特徴のひとつは、一貫して拡大路線を続けたという点です。94年の発足当初より資金不足でしたが、勝つことから編成を考えて予算を組んでいき、必要な資金を集めるという感じのやり方です。
収入規模からチームをつくるのではなく、こういうチームを作るからこれだけ必要。とにかく、予算が先なので、収入は不足し毎年自転車操業です。朝日ソーラーやペイントハウスが社業の傾きから撤退し見通しが立たなくなっても、チームを縮小する事はしませんでした。
98年、J2リーグ発足に伴いJリーグへ参入するという大きな転機が訪れます。 Jリーグ参入の為に運営会社であるクラブは法人化を求められていたのですが、前年にJFL12位という芳しくない成績、3億5000万まで膨らんでいた運営費や数億の負債に見られる不安定な財務状況など、地元財界や官、民からも反対する声も少なくありませんでした。
そうした状況の中で、溝畑氏は98年周囲の反対を押し切って前年から1億上積みし4億5千万の予算を組み大型補強をします。J参入を周囲に納得させるために結果を求め、その為の大型補強でした。結果として6位という結果を得ますが、こうしたピンチに後先考えず補強するというやり方は、その後も繰り返されます。
大分にプロサッカークラブを作って大分を盛り上げるという夢に、周囲から支援を取り付ける為に溝畑氏が出した答えは「勝つこと」だったと言えるでしょう。勝てば観客が入る、勝てば支持者が多くなる、勝てばスポンサーが増える、勝てば地元がついて来る。ここから導き出された答えが「拡大路線」だったのでしょう。
彼は官僚でした。身銭を切ってクラブに貸付たりチケット購入などで大金を注ぎ込んだとはいえ、企業経営者出身ではありません。大分トリニータは溝畑氏がいないと存在しなかったでしょうが、もし、彼が企業経営者だったなら、こういう危ない橋は渡らなかったと思います。企業はまずは潰れない事が第一ですから。もし収支が合わなければコストカットもしなければいけないですし汚れ仕事もしなければいけません。皆仲良くだけでは経営は成り立たたないのです。
そもそもの生い立ちが、94年の発足からJリーグを目指し、2002年のワールドカップまでにJ1にいくというタイムリミットが設けられたクラブです。こうした背景も、常に右肩上がりを義務付けられた運命ともいえます。こうした背景は、彼の拡大路線をさらに強化したとも言えるでしょう。
2002年以降も事業規模を縮小するタイミングはありました。しかし彼はそれをしませんでした。本の中に2005年について本人が言及している箇所があります。
あのときも「経営が厳しい」と言って下を向いていたら終わっていました。銀行あたりが入り込んで「規模縮小」「選手放出」「J2でやれ」というのが身の丈論でした。「絶対にこいつらに渡さんぞ。何がJ2や」と。「苦労して苦労して血のにじむ思いで皆と努力したチームをJ2におとしたちゃいかん」「そのためやったらオレの首をとそしてみ」。そんな気持ちでした。偉い人とも戦いました。ひとりになっても「俺は戦う。『権力』の前に屈さないぞ」と。
社長・溝畑宏の天国と地獄 ~大分トリニータの15年
p132
溝畑氏の拡大路線は、ナビスコ優勝という大きな結果を地元大分にもたらしますが、結果的に降格により問題が露見したように、常に大きくなり続けないといけない、止まれば死んでしまう大きな自転車を必死にこいでいたのです。上記の引用からは、拡大路線をずっと続けてきた溝畑氏と周囲との軋轢がそうと高まっていことが推測されます。
こうした危うい拡大路線は、いつかは破綻が訪れる運命だったのかもしれません。
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