サッカークラブ経営という無理ゲー
「Jリーグ再建計画」を読む
先日この本を読みました。
某ブログにて発見し、久々にクラブ経営関連の本を手に取りました。内容としては、ライターさんがJリーグのトップである村井満チェアマンと大東和美前チェアマンに話を伺う内容です。Jリーグの課題やら、前後期制に変えたいきさつなど書いてあります。
Jリーグに関する諸問題にいろいろ触れられています。Jリーグへの関心度が下がっているとか、放映権料が頭打ちでスカパーも赤字でやってるとか、入場者減ってるとか、電通博報堂が動いてもスポンサーつかないとか、暗い話ばっかりです。端的にまとめると、国内市場に依存しているJリーグは、国内の経済状況に左右されやすいって事だと思いました。
横浜F・マリノス、嘉悦社長の挑戦
それはさておき、この本の中では、横浜Fマリノスのクラブ経営について書いてあります。マリノスは、「赤字を出したら補填する」「責任企業」として日産をバックに持っています。Jリーグには、実業団チーム上がりの多くのチームがそういう構造になっています。
「責任企業」日産から来た嘉悦社長は2009年夏に社長に就任されています。嘉悦社長は、「責任企業」の補填なしにクラブ単体でどこまで赤字を圧縮し自立した経営が出来るか、クラブ経営に挑みます。この背景には、リーマンショック後の国内景気後退など日産が苦しくなった事もあると思いますが、そもそも責任企業が赤字補填しないと成り立たないJクラブの構造はおかしいのではないか、という問題意識からスタートしたそうです。
ちょこちょこ決算を探してみましたが、マリノスの決算報告って素晴らしいですね。経営課題まできっちり書かれていて、ここまで情報開示するのはさすがだなと思います。ここまで情報開示すると余計な疑念をかけられる事も少なくなるでしょうし、鳥栖もぜひ見習ってもらいたいものです。
細かい数字を追っていくと難しくなるので、経常利益推移を見ていくと、嘉悦社長が2009年途中にマリノスに行って2012年まではずっと赤字です。赤字補填を日産に補填させるのを止め、運営上発生する赤字をそのままオープンに決算を作っていきます。この間に様々な取組を行い、2013年には本書によると「責任企業からの赤字補填なしで何とか収支が立つところまで」、収支トントンまで持っていくことが出来ています。
その間の取組みとは地道なもので、スタジアムがある横浜市港北区での認知度、浸透度を上げるため小学生に選手の写真と名前の入った下敷きやクリアファイルを配布したり、選手訪問をこまめに行ったり、地元の球団とタイアップしたり、ホスピタリティを学ぶ為にディズニーランドに研修にいったりと様々に行っています。
マリノスですら収支トントンの現実
責任企業をあてにせず、クラブ単体の経営で収支トントンまで持ってくる事ができた嘉悦社長の経営手腕は素晴らしいと思います。
ですが、よく考えてみると、国内で有数のビッグクラブであるマリノスですら収支トントンなんですよ。横浜市という大都市をホームにして近隣市場も大きな首都圏に位置し、日産スタジアムという大きな箱を有し、日産というバックがある、そのマリノスですらですよ。
市民クラブには責任企業はありません。責任企業を持つ会社は責任企業に赤字補填して貰えます。(もちろん責任企業が面倒を見てくれればですが)。ただ、市民球団といわれる球団にも金主はいるんですよ。多くの市民クラブは地元の経済界などから支援を受けています。ただし、日産のような世界的企業のように金を出し続ける事は出来ません。経営状態は個別の問題ですが、マリノスですらやっと収支トントンにできるようなJクラブの構造では、おそらく毎年の出資を地元の経済界に強いる事になり、だんだん資金拠出に付き合いきれなっているケースもちらほら見受けられます。近場では、福岡の地元企業七社会の経営からの撤退もそうでしょう。
これらの構造は、以前記事にした大分トリニータの本にもよく描かれており、毎年のお付き合いに地元が辟易していく様が伺えます。この本にもでてきますが、地元で資金を補えない分、溝畑社長が自身のコネクションを生かして全国から資金を引っ張ってきます。
この記事を書いた時は「無茶な事をせず収支の取れる範囲内で経営すればいいのに」と思ったりしたのです。ですが、収支の取れる経営って果たしてこの構造の中で可能なのか、答えは出ません。カテゴリーを維持する為には、ある程度の選手の予算を取らないと勝てるチームは出来ません。
ではカテゴリーを下げればよいではないか、と思いますが、カテゴリーを下げると広告費入場料など売上も下がり、さらなる人件費の絞込を行わなければなりません。安定経営をしたからといって未来が開けるのかは疑問です。これは各クラブ個別なのでなんとも言えませんが。
責任企業のないクラブは資金獲得の自転車を漕ぐ
今回よんだこの本は、「こんどはプロの経営者が必要だ」みたいなJリーグ側の主張が書いてありますけど、はっきりいってプロの経営者だったらこんな無理ゲー引き受けないですよ。能力がないから経営できてないのではないのです。構造的に利益がでないようになっているんですから。
Jリーグはドイツのブンデスリーグを参考にしているようですが、こちらのまとめサイトによるとJリーグの平均入場者数は平均16000人でブンデスは45000人との事。なんでこんなに違うのかと思いますが、どっかで読みましたけど、ドイツは土日は商店なんかもしっかり休み、競合する娯楽が少ないようです。それに対して日本は、サッカーだけでなく野球などほかのプロスポーツ、各種ゲームにレジャー、イベント、競合するコンテンツで飽和しているような状況です。これについてはまた別の機会にまとめたいと思いますが、日本国内で集客する事の難しさがわかると思います。
サポーターはクラブの懐具合をよく知りません。予算を圧縮しようとして、高額年俸の古参を切ったら切ったで不買運動とかい言い出します。そういう意味では、クラブの現状を丁寧に説明しようとするマリノスのオフィシャルサイトでの経営状況の説明は素晴らしい。
こうした現状を理解すると、責任企業をもたず、安定して支えてくれる地元経済が弱いところというのは、程度の差はあれ外部に資金を頼り続ける自転車を必死に漕いでいくしかありません。
今のところ、わがサガン鳥栖は、創業者井川さんのラインや前知事古川さんのラインを生かしながら、うまくキャピタルゲインした人や成功した企業にご支援を賜る事に成功しています。そうです、成功したお金持ちにパトロンになって頂いて喜捨を頂く事が生き残る上でとても重要です。
そういう意味では、現社長はよくやられていると思います。外部からの資金を集め続け、まだまだ時間かかりそうですが、様々な集客の手は出来る限り打ち続けているように見えます。マリノスのレベルまでクラブを押し上げ収支トントンまでもっていく改善をすすめながら、そのときまで毎年おカネを集め続けなければいけません。一挙手一投足サポーターに文句を言われ続けながら。
サポーターにもパトロン獲得の為に出来ることがあると思うんです。自分でカネを出すといってもサポーターの生活が破綻するほど鳥栖に貢ぐのは賛成しません。そうじゃなくてもできるんです。鳥栖の強みは自身のもつ長い苦難を克服してきたストーリーで、この物語は多くの人を魅了します。そういうクラブのストーリーを大事にし体現できるようなサポーターである事です。このクラブにお金を出してもいいと思えるサポーターである事です。抽象的ですが、そういった行いは、小さいけれどとても大事な助けになると思います。
この無理ゲーをクリアして「こんなげーむにまじになっちゃってどうするの」というエンディングを見たいものです。クラブに終わりはありませんけども。
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とても興味深く拝読し、紹介・リンクさせていただきました。
http://koshikuwa.info/?p=7407
よろしくお願いします。